体を温める食べ物・冷やす食べ物|薬膳と陰陽のやさしい入門
公開日:2026年 11月 5日

体を温める食べ物と冷やす食べ物は、薬膳では「五性」という5つの性質で分けて考えます。食材の見分け方の目安と、冷えが体だけでなく気分にもどう出るかをまとめ、今夜の一品を少しだけ温める側に寄せる方法を紹介します。
連載「ご機嫌の土台」の1回目です。心と体を同じ土台として見ていく連載で、最初は食べ物の話から始めます。
冷えた日に、きゅうりよりかぼちゃが食べたくなる
暑い日は、冷蔵庫のトマトやきゅうりを、そのままかじりたくなりますよね。ところが外の空気が冷たい日は、同じ冷蔵庫の前に立っても、手が伸びるのはかぼちゃやねぎ、汁物にできそうなものです。同じ野菜室なのに、選ぶものが自然に入れ替わっています。誰かに教わったわけではないのに、体のほうが先に、今日は温かいものがいいと知っているようです。
外の空気が一段ずつ冷えていく頃は、体の切り替えが少し遅れる感じがあります。朝晩の冷え込みに、服より先に手足が気づく。手袋を出すほどではないのに、指先だけがいつまでも冷たい。そういう日は、なんとなく気分も内向きで、人と話すのが少しおっくうになったりします。
ここでは、体を温める食べ物と冷やす食べ物を分ける、薬膳の考え方をご紹介します。冷蔵庫の前で起きているあの心の入れ替わりに、名前をつけてみるというようなことです。
季節の変わり目を楽しみつつ、夕食の一品を選ぶときに思い出してもらえれば十分です。
体を温める食べ物・冷やす食べ物の見分け方
体を温める食べ物・冷やす食べ物とは:薬膳の「五性」
薬膳では、食べ物を「寒・涼・平・温・熱」の5つに分けて考えます。これを五性と呼びます。寒と涼は体の熱を冷ます側、温と熱は体を温める側、平はそのどちらにも片寄らない、穏やかな性質です。
この分け方は、食べたあとに体がどう感じるかを、人が長い時間をかけて積み重ねてきた経験の知恵です。栄養学のように「食べると体温が何度上がる」と測った話とは、物差しが違います。だからここでも、効き目の表というより、食べ物を選ぶときの目安として読んでいただけたらと思います。
もうひとつ知っておくと楽になるのが、毎日食べるものの多くは「平」だということです。米、大豆、キャベツ、にんじん。主食や定番の野菜は、温めも冷やしもしない真ん中にあります。土台が真ん中にあるので、全部を温める側にそろえなくても大丈夫です。
見分け方の目安:育つ場所・季節・色・水分

食べ物の性質は、表を覚えなくても、ある程度は育ち方から想像できます。寒い季節や寒い土地で育つもの、色の濃いもの、水分の少ないものは、温める側に入りやすいと言われます。かぼちゃ、ねぎ、にら、玉ねぎ、生姜、シナモンなどです。
反対に、暑い季節や暑い土地でよく育つもの、水分をたっぷり含んだものは、冷やす側に入りやすくなります。きゅうり、トマト、なす、すいか、バナナ。夏にこれらがおいしく感じるのは、体の側から見ても筋が通っています。
もちろん例外もあります。大根やごぼうは土の中で育つ根菜ですが、薬膳では冷やす側に数えられることが多い食材です。目安は目安として、外れるものがあっても気にしなくてかまいません。
性質は、調理でも寄せられます。火を通す、発酵させる、塩をすると温める側へ。生のまま、冷やしたままだと冷やす側へ。生姜は、加熱したり乾燥させたりすると温める力がはっきりする、と言われます。大根も、生のサラダより煮物のほうが、冷えた日には食べやすく感じるはずです。
この見方の源流には、マクロビオティックの陰陽の考え方や、「身土不二(しんどふじ)」という言葉があります。生まれ育った土地で、その季節にとれるものを食べるのが体に合う、という考え方です。寒い時期の畑にあるものを食べていれば、自然と温める側に寄っていきます。旬の食べ物と肌の関係は、こちらの記事でも書いています。
心の側から見ると:冷えると、気分も内にこもる
体が冷えると、熱を逃がさないように、肩をすくめて背中を丸めた姿勢になりやすくなります。首が縮まり、胸が閉じるので、呼吸も浅くなります。外の気温が下がるペースに体の切り替えが追いつかないうちは、この縮こまった姿勢のまま一日を過ごしがちです。
こうした体の縮こまりは、気分の側にも出やすいものです。人と話すのが少しおっくうになる、同じ考えが頭の中をぐるぐる回る。寒い日に理由もなく気持ちが沈むのは、気持ちの弱さというより、体が守りの姿勢に入っている影響もあります。
温かい汁物をひと口飲むと、まずお腹のあたりがじんわりして、少し遅れて肩が下りてきます。吐く息も長くなります。体がほどけると、気分もほどけやすくなります。
心と体は、同じ土台の上にあります。だから、気分を変えたい日に、体の側から手をつけてもいい。この連載では、その入口をひとつずつ見ていきます。冷えにくくするための暮らし全体の工夫は、温活の記事にまとめています。
冷やす食べ物を、やめなくていい
ここまで読むと、冷やす側の食べ物を避けたくなるかもしれません。でも、きゅうりもトマトも果物も、悪者ではありません。体に熱がこもったときや、ほてりを感じるときには、冷やす側の食べ物が役に立ちます。
寒い日に食べたいなら、温かい料理に入れる、冷蔵庫から出して常温に戻す、くらいで十分です。トマトはスープに、なすは味噌汁に。完璧に温める側へそろえる必要はありません。
今夜の一品を、温める側に寄せてみる

献立はいつも通りで、食べたいものを選びます。その中の一品だけ、少し温める側に寄せてみます。
たとえば、味噌汁に刻んだ生姜をひとつまみ。サラダの野菜を、さっと蒸して温野菜に。食後の冷たいお茶を、温かいハーブティーに。どれかひとつで足ります。
湯気の立つ椀を両手で包むと、冷えていた指先に、少しずつ温かさが戻ってきます。ひと口すすって飲み込むと、お腹のあたりがぽっと温かくなる。食べ終わったら、肩が少し下りたか、吐く息が長くなったかを感じてみてください。気分が少しでも軽くなっていれば、それが体の側から気分を変えた、ということです。
外の空気が冷たくなっていく間、体はいつも少し遅れてついてきます。体を温める食べ物を一品足すのは、その遅れを埋めるのを手伝うくらいの、軽い一手です。気分を上げようと頑張る前に、まず温かいものをひと口。ご機嫌の土台は、そこから始まります。
食後の一杯を温かいものに替えるなら、次のハーブティーから選んでみてください。湯船で温まりたい夜には、ジンジャー入りの入浴用ハーブもあります。
連載「ご機嫌の土台」
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